メキシコシティの街並みを歩いていると、屋台でエプロンをしたオジサンが得意げにタコスを焼いている姿をよく見かける。それはメトロを降りた駅周辺に集中していたり、大使館やオフィスビルなどが並ぶレフォルマ通りを一本入った穴場的な裏通りなど、人の多く集まるところほどよく見かける。このオジサンたちは肉を手際よく焼き、あっという間に細かく切る。タコスの皮もうまいことヒュッと投げたりする。そして「うちのサルサベルデは最高だよ」と自慢もする。
これはメキシコ生活時代にタコスが好き過ぎて愛が止まらなかった食べ歩き回想録です。2008年ごろのお話ですので、現在もあるかはわかりません。
屋台のタコスを食べ歩く前に
メキシコシティでの生活時代、私は安くて美味しくて手軽に食べれるタコスにはまっていた。太ってしまうなんて考えもせずに朝から晩までよく食べていた。食べ歩いていると、油ギトギトな皮で包んだタコスにも出会うことがある。こんなの毎日のように食べているメキシコ人は樽のように太っていて当然だと思う。屋台のタコスは衛生的にいかがなものかと心配する人も中にはいるけど、メキシコで屋台のタコスを堪能したかったらまずそれは忘れてしまうことが重要。その後にどうなるかはもう自己責任の話です。
ガテン系なタコス屋さん
メトロ青線サンアントニオアバド(San Antonio Abad)駅付近に、平日の昼間だけ出現していた屋台があった。この近くに友人が住んでおり、曰くこのタコス屋さんはいつもいっぱい人がいるとの情報が。ならば行かねば。
人の多い屋台ほど味が一品というのはタコス界の常識。
ここはなんというか、トラックのお兄さんとかが立ち食いでタコスをがっついてるような「ガテン系」。ダイナミックです。はい。
どこのタコス屋も辛い系のソースはだいたいトッピングとして好みでつけるという感じだけど、ここは始めっから肉に辛い味付けしてあるので、肉そのものがすでに辛い。
辛くないタコスなんてメキシカンじゃねぇ!とでも言いたげだ。
トッピング用の玉ねぎも巨大なチレ(唐辛子)と一緒に炒めてあり、見るからに辛そうだった。ワイルドなタコスなのだ。
そのわりに皮はしっとりしていてソフトというオチ。美味しかった。
バカボンのパパ風な父さんが肉を焼いているタコス屋さん
アルバロオブレゴン(Av.Alvaro Obregon)通りとメデジン(Medellin)通りの角にあるタケリアだった。このオブレゴン通りは私がメキシコシティに住んでいた頃の一番お気に入りの場所で、オシャレなレストランやショップが多く立ち並んでいる。
タケリアとは屋台と違ってタコスをメインとしたメニューを出す簡易的な食堂のようなところ。店頭ではパストールというお肉をジュージューとやっている。パストールとは豚肉をケバブみたいな塊で焼き、それを削り落としてトルティージャ(タコスの皮)に乗せ、パイナップルを添えて食べるタコス。
えっ?・・・タコスにパイナップル?!なんか酢豚的な。
私の好みではなかったがメキシコでは人気メニューのひとつ。
タイルなどを使ったかわいい、いかにもメキシコ風インテリアの店内では、ちゃんとテーブル席でタコスを食べることができ、オーダーも取りに来てくれる。
屋台の立ち食いとは違うんだ。
店の前でタコスを焼いているおじさんはバカボンのパパ風(勝手にこんなあだ名をつけてしまってゴメンなさい)。おでこに白いタオル巻いたらすごく似合いそうな感じの人でとてもやさしい。他の店員さんも人懐こく、毎朝の通学時に店の前を通るといつもニコッとして挨拶してくれた。私はメキシコのこういうフレンドリーなところがタコス同様に大好きでたまらない。
お昼のランチ時にはコミーダ・コリーダ(Comida corrida)という日替わりランチをやっていて、タコス以外にも食事ができたので学校帰りにもよく寄っていた。
こんなカワイイ料理を出すお店にバカボンのパパはいた。
リオレルマ通りの小さな人気屋台
大使館やオフィス高層ビルなどが立ち並ぶレフォルマ大通りの一本隣り、リオレルマ(Rio Lerma)通り(Rio Elba通りとの角、超高層ビルTorre mayorの裏)に平日の夜だけ出現する屋台があった。いつもモウモウと煙をたて、お肉やノパル(ウチワサボテン)やセボジン(小さい玉ねぎ)、そしてアルミホイルでくるまれたジャガイモをバーベキューのように焼いている。
ひと目で人気屋台なのがうかがえる。
小さな小さな屋台の割には店員がやたらと多く、焼く係、オーダー取る係、会計係と分担を決めて、みんなでおそろいのエプロンかけて運営している。
客がいつも道にあふれている。
こういうのこそが理想のタコス屋台。
ここのお肉もかなりダイナミック。鶏肉なんかは骨までついてたりしてどーやって片手で立ち食いすんの?な状態で出てくる。タコスは頬張って片手で食べるもんだと思っているので、骨とんなきゃいけない時点で、あれ?ちょっとめんどくさい?って思うのは私だけだろうか。見た目はインパクト大だが非常に食べにくい、でも味は間違いなく美味しい。お好みでとろけるチーズをトッピングできたりもする(別料金)
「石井さんのタコス屋さん」でしめタコス
同じくリオレルマ通り(Rio Guadalquivir通りとの角・アンヘル近く)にいつもある安心の屋台があった。私はひそかにここを「石井さんのタコス屋さん」と呼んでいた。タコスを焼いているオジサンが、以前の職場の石井さんという人にそっくりだからだ。
ここはなんといっても屋台なのに24時間営業というのがありがたい。留学生仲間たちと近くの繁華街ソナロサで夜遊びした後はだいたいここでタコスを食べてから帰宅。
しめのラーメンならぬ、しめタコス。
タコスの味もまたとても美味しい。ビョーンって伸びるオアハカチーズをトッピング(別料金)したタコスを頼むと、ピザ生地のようなフラワートルティージャになり、タコスではなくピザを食べているような感じがする。
イタリアンとメキシカンのフュージョンみたいだ。斬新でけっこう美味しい。
チーズたっぷりなのでお腹にたまる。太る。しかも夜中っ!チーズなしだとイタリアンではない普通のトウモロコシ皮のタコスとなるが、こちらも安定の美味しさ。
私が帰国した後も、メキシコシティに滞在していた日本人留学生たちの間で「石井さんのタコス屋さん」と呼ばれるようになっていたそうだ。今もやってるのかな。メキシコ人の石井さん。
圧倒的回数で通いつめたメトロの駅前屋台
メトロチャプルテペック(Chapultepec)駅地上にある屋台。地下鉄を降りて地上にでるとタコス屋さんが5件ぐらい並んでるところがあって、私はその並びの2件によく行っていた。どちらもとにかくボリュームたっぷりで安い。
ビステクという牛肉タコスのお肉も大きくて超分厚い。さらにトッピングで茹でジャガイモをたっぷり乗っけてくれる。好みで焼き玉ねぎとノパル(ウチワサボテン)も。
このタコス屋の前でメキシコ人に混じって椅子に座り、レフォルマ通りにそびえ立つ55階建て超高層ビルのトーレマヨルを眺めながらタコスにかぶりついていると、
「あぁ、メキシコシティにいるんだなぁ」
といつも実感していた。
(レフォルマ通りのシンボル的な高層ビル、トーレマヨールをタコス屋から望む)
すぐ後ろでは海賊版CDを売る屋台からサルサやレゲトンが聞こえ、その横では時計や電池などを売るガラクタ屋台から売り物の目覚まし時計の音がピーピー聞こえている。雨季には暗雲たちこめゴロゴロと雷が鳴り、タコス屋のオジサンたちがひっきりなしに客引きをする。
これがメキシコのせわしない駅前市場の音。。。なつかしい。
メキシコの思い出がいっぱいつまったタコスとの思い出。
読んだらぜひタコス食べてみてね。